いちご



「そうか…」



ポツリと優しく、呟くように言った慶兄の一言が、また私の胸を苦しくさせる。


「ありがとね?慶兄」



それしか言えず、軽く唇を噛み締めた。


誰かの一言が、慶兄の一言が、私の心を揺さぶる。


今にも溢れ出しそうな何かが、胸を支配する。



私…どうしちゃったの?


「慶兄…寝なくて大丈夫?」



これ以上確信に迫られたくなくて、話を逸らそうと思い、顔を上げて口を開いた。


「ん?疲れもぶっ飛ぶような事して、お預け状態だからなあ」


「な、何それっ!?やめてよ…」


クスクス笑う慶兄に、これ以上対抗する術なんて私にはない。


あきらかに余裕な慶兄に、赤くなりっぱなしなのもしゃくだ。

「ゴメンゴメン。もものそう言う態度、今まで見たことないからさあ」


「え!?からかってたの!?」



グッと優しく抱き締めている慶兄の温もりが、私でも知らなかった自分を引き出してくれているようだった。


人の温もり…人肌が、私には必要だったのかもしれない。



「からかって……たのか?」


「そこ私に聞く所じゃないでしょ」



何だか可笑しくなって、思わず笑いが漏れた。



一緒になって笑う慶兄が、私の頬に自分の頬を寄せて笑っている。


何だかくすぐったくて、心がポカポカする。


思わず慶兄の腕を掴んでいた手に力を入れると、慶兄の腕が私の顎先まで寄せられ、ピッタリと慶兄と頬をくっつける形になった。



「そろそろ寝ようか」


「…うん」
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