いちご



「ねぇ、やっぱり置いてくるよ。ベッド濡らしちゃう」


「ダーメ。まだちょっと熱持ってるだろ」


寝室まで入った所で、タオルを外すか外さないかでベッドに入れずじまいだ。


実際、だいぶ額の痛みは治まってきていたし、氷もだいぶ溶けていて、タオルは絞れてしまいそうだった。


「でも…大丈夫だから」


「ももが汚すなら俺はむしろ嬉しいけど?」



何だかイヤらしく笑ってみせる慶兄に、思わず赤くなって軽く睨み付けた。


「慶兄…何かエッチ!!」


「何が?ももこそ何想像してんだよ」



くっ…悔しい!!恥ずかしい!!やだもぅ!!


そんな風に言う慶兄が悪いんじゃん!!さっきあんな事私にしといて、そんな事言ったらそう思うに決まってんじゃーん!!

なんて絶対言えない。



「…なんにもっ!!」


「はは、可愛いなあ」



余裕綽々な慶兄に対して、全く余裕なんてない私は、それ以上何も言い返せなかった。



そしてもう一つ、目の前にある大きなベッドに入る事に躊躇していた。


先ほどまでの出来事に、目眩がしそうだ。


視線の縁に入ってくるクローゼットが、私の胸の鼓動を速めていく。



「頑固だなぁ…どれ、ちょっと見せて?」


黒で統一されている大きなベッドに腰掛けた慶兄が、下から優しく微笑んで見上げた。


思わず唇をグッと結んで、軽く眉をしかめた。


そんな表情をされて、胸がドキドキとして頬に熱を持つようで、ごまかそうと目を泳がせた。
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