夢のウエディング イン イタリー
「ただいま~」

美和が自宅のドアを開ける。

「おかえり。まぁまぁの時間ね。パパはもう寝てるけど」

「あの・・・ね。ママ。あたし、コージくんと結婚したいと思うの」

「あら!そうなの」

「で、急なんだけど・・・来週の日曜日、コージくんが挨拶に来るって言うんだけど、大丈夫かな」

「別に用事はないから、大丈夫よ。・・・今度こそ、大丈夫なんでしょうね?薬、やめるとか言いださないでよね」

チクリ、と過去の傷がうずく。美和は統合失調症持ちだ。5年前、結婚を約束した男に薬をやめるように言われ、そのとおりにして、症状が悪化、入院。男は、あっけないほどあっさりと美和のもとを去ったのだった。

「コージくんには、病気のことも、過去のこともはなしているから大丈夫。安心して」

美和の母がため息をつく。

「だったらいいけど。あのときは、大変だったんだからね」

これ以上、話したくない。美和は思った。

「じゃあ、お風呂入っていい?」

「いいわよ。私は、先に寝ているから」

「うん。おやすみなさい」

美和は、お風呂に入って思い返す。あのときは、もう恋なんて、結婚なんて、と思っていたのに。人って、あたしって、意外とタフだ。いや、弱いのかな。結局、ひとりではいられないんだから。

髪を乾かすと、部屋に逝って拡嗣にメールを出す。

【もう寝ちゃった?今日は、突然の逆プロポーズに驚いた?これから、イタリア挙式大作戦が始まるね】

すぐに返事が来る。

【寝ようと思ってたとこ。驚いたけど、嬉しかったよ。絶対実現させような。親御さんには、来週のこと言ってくれた?】

【言ったよ。ちょっとびっくりしてたみたいだけど、OKだって】

【よかった。じゃあ、来週は決めていくよ。ご両親、甘いものは大丈夫?】

【うん。カットしたパウンドケーキとかでいいんじゃないかな】

【了解。じゃあ、来週な。】

【ねぇ…コージくんは急にいなくなったりしないよね?】

【何言ってんの?美和ちゃんは僕の大切な人だよ。いなくなるはずなんて、ないじゃないか】

【そうだよね。おやすみ】

【おやすみ。】

拡嗣は、あの人とは違う・・・そう思いながらも、なかなか眠りにつけない美和なのだった。
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