僕の背後にナリスマシ

　周治はラーメンをスープまで飲み干すとトレーとどんぶりショップの返却コーナー に戻した。グラスだけを手に取り水を注いで席に戻ると隣の席に数日前に〈くノ一〉のアルバイトの話をしていた女の子二人が座っている。

「最近お昼の放送を避けて休憩とってない。」
　先日、くノ一の話を聞いていた女の子が言った。
「聴きたくないのよね。嫌なこと聞いちゃったから。」
　くノ一の話をしていた女の子が答える。
「この前リアクション・チェックの話をしたでしょ。この番組もそれをやってるんだって。私あんまり気にしてなかったんだけど、この番組のDJめちゃくちゃ性格悪いんだって。それ聞いて聴く気しなくなった。」
「その話どこで聞いたの。」
「友達が演劇やってるの。その劇団の脚本書いてるのがあのDJ。それでストーリーのネタ盗むのに盗聴器とかいっぱい仕掛けてるみたいなの。そこで面白い話があるとそれを使うんじゃなくて、その人の事を徹底的に調べて 人間性を否定するんだって。」
「 どんな風に否定してるの。」
「例えば盗聴器がある部屋でお酒飲んだら、飲酒運転をしましたとかその部屋の人がお酒を飲んだ後に車を運転したみたいに話を捏造してラジオで放送しちゃうの。だからフードコートも地元のラジオを流すのやめようかって話をしてるみたいよ。」
「そうなんだ。やっぱり全国ネットの社交辞令的な放送になるんだ。それでね、ごめん。私くノ一のアルバイトをしてた。」

　隣の女の子達の会話を何気なく聞いていた周治だがさすがにこれには びっくりだ。事実は小説より奇である。
　先日くノ一の話をさりげなく聞いていた女の子が実はくノ一のアルバイトをしていたとは。くノ一のアルバイトをしていた女の子は 一生懸命謝っている。
「私ずっと騙されてたんだね。」
「だからごめん。」
「じゃあ今日おごりでいい。」
「うん 、いいよ。私も正直言ってリアクション・チェックなら面白いと思ったんだけど、途中から犯罪に加担してるみたいで嫌になっちゃった。」

　パープルだけじゃない。ヘンタイジャーがやってることは犯罪だ。それにしてもだ、他人の携帯やパソコンを覗いたり盗聴してる奴等が〈俺達の悪口を言っている。〉と腹を立て正義を盾にするとは 一体どういう世の中になったんだ 。ITの普及で便利というよりおかしな世の中になったような気がする。覗かれているのは俺たちなんだと周治は納得できない。