極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
プロローグ
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「文香」

 柔らかくて甘い声。
 この声で名前を呼んでもらうのが、なによりも好きだった。
 
 ゆっくりと視線を上げた私の前に、小さな箱が差し出される。

「俺がイギリスに留学する前に、どうしてもこれを渡しておきたかった」

 長い指が箱を開く。中には美しいダイヤの指輪。
 照明を反射する宝石は、幸せの象徴のように輝いて見えた。

「一年後、俺が日本に帰ってきたら結婚しよう」

 大好きな恋人にプロポーズをされ、愛おしさと喜びで胸がいっぱいになった。
 だけど、すぐにやるせなさと苦しさに幸せな気持ちが塗りつぶされる。

 結貴を愛しているのに、一生彼のそばにいたいと願っているのに、首を縦にふることは許されないんだ。

 心の中で自分に言い聞かせた私は、奥歯を食いしばりうつむいた。



「ごめんなさい」

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