極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 翌日、教えられた場所についた私は、口をぽかんと開けて目の前のビルを見上げた。

 新しい職場はこのビルの一階にある『Green Cafe』。窓が大きく店内のあちこちに配された観葉植物が印象的な素敵なカフェだ。

 けれど問題はビルの正面入り口に記された会社名。
 上品な書体で『葉山製薬』と刻印されているように見える。
 
 えっと、ちょっとまって。これはもしかして……。

「おはようございます、文香さん」

 背後から声を掛けられ跳び上がる。そこにいたのはアランさんだ。

「文香さんには、今日からこちらのカフェで働いていただきます」
 
 にこやかに言われ、「ど、どうして……」と困惑する。

「おや、驚いてますね。もしかして人材派遣の担当者が社名を伝え忘れていましたか?」

 綺麗な微笑みのはずなのに、なにやら腹黒いものを感じるのは気のせいだろうか。

 まさか新しい職場が葉山製薬だとは思わなかった。
 なんて偶然だろう。いや、偶然なのか……?

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