極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています

　その空気に気付かない店長がパンと手を叩き、お店の営業が始まる。




「また白石さん早く帰るんだって」
「子供の世話だかおじいさんの看病だか知らないけど迷惑ですよね」
「シングルマザーって理由で日曜も祝日も休むし、ずるくない？」

　ひそひそとささやかれる言葉に、ぐっと唇を噛んで聞こえないふりをする。

　彼女たちに不満を持たれてもしかたない。
　未来の突然の体調不良で休むことも多いし、保育園が休みの日曜や祝日、夜はシフトに入れない。
　それに加え祖父の面会の時間内に着替えや差し入れをしにお見舞いに行くために、早めに上がらせてもらっている。
　
　迷惑をかけているんだから、その分きちんと仕事をしなきゃ。

　率先して動き回り接客をしていると、店長がフロアにやってきた。

「こら、そうやって無駄話ばかりしてないで、白石さんを見習ってまじめに働けよ」

　固まっておしゃべりしていた加藤さんと篠田さんに向かって店長がそう言うと、一瞬その場がしんと静かになった。

「はーい、すみませーん」