極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
　アパートが見えてくると、外階段の上に誰かが立っているのに気が付いた。
　黒のジャージ上下にキャップを深くかぶった男の人が階段を下りてくる。
　
　あんな人、ここの住人にはいなかった気がするけれど、誰かをたずねてきたのかな。
　なんとなく、誰かに似ている気がするけど……。
　
　私が首をかしげたとき、二階のドアが開いた。

「おかえり文香」

　窓から私が歩いて来るのを見ていたんだろう。
　顔をのぞかせた結貴に、「ただいま」と少し照れながら笑顔を返す。

　結貴は玄関から出て階段を下りてくる。
　そして私の全身をまじまじと見つめてため息をついた。

「普段の文香もかわいいけど、予想以上に綺麗だ。帰ってくる途中、悪い男に声をかけられなかった？」
「なに言ってるの」

　真顔でとんでもないことを言う結貴に、頬が熱くなる。
　こんな会話を誰かに聞かれたら恥ずかしいとあたりを見たけれど、いつのまにか黒い服装の男性はいなくなっていた。
　
< 138 / 197 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop