極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 小さなころ、学校の発表会もクラブチームのサッカーの試合も参観日もテストも、まったく俺に興味を示さなかった父親に、ようやく認めてもらえたような気がした。

「そんなこと、はじめて言われた」
「そうだったかな」
「あなたは昔から、家に近づこうともしなかったから」
「私は、裕子に憎まれていたからね」

 裕子とは俺の母の名だ。

 まるで母を愛していたのに憎まれていたから我が家に帰れなかったんだ、という父の口ぶりは納得いかない。

「それは反対でしょう? 母さんはいつもあなたのいない家で寂しそうにしていましたよ」
「まさか。裕子は私が赤子だったお前を抱くどころか、顔をのぞきこむのすら拒否して部屋に閉じこもっていたのに」

 俺が生まれたばかりのころ、ふたりの間でどんなすれ違いがあったんだろう。
 理解できず俺は眉をひそめる。

「結貴は、結婚を考えているような恋人はいるのか?」

 おもむろにそう問われ、一瞬言葉につまった。

 愛する人はいる。
 けれど彼女は違う男を愛している。
 
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