極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「私も裕子も、視野が狭くなってお互いを想う余裕がなかったのかもしれない」

 振り返ると、三つ揃えのスーツを身にまとった七十代くらいの男性が歩いてきた。
 
 声と同様に威厳と落ち着きのある佇まい、そしてその顔立ちを見て彼が誰なのかがわかった。
 葉山製薬の社長、そして結貴のお父様だ。

「あなた……、どうして」
「アランに結貴が病院にいると呼び出された」

 結貴がアランさんを見ると、彼は上品な笑みを浮かべたまま軽く会釈した。

「すれ違ったままの家族を和解させるのに、ちょうどいい機会だと思いまして」

 そう言ったアランさんに結貴は小さくため息をついて笑う。
 お節介にあきれながらも、感謝しているようだった。

「裕子」

 名前を呼ばれ、お母様の肩がぴくんと跳ねた。
 おびえるような表情で、お父様のことを見る。

「子供に恵まれなくてお前が悩んでいるのを知っていたのに、仕事ばかりで寂しい想いをさせてしまって、悪かった」
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