極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています

「そんなこと言わないで。おじいちゃんがいなくなったら、私と未来はふたりきりになっちゃうよ」
「お前たちを守ってくれるいい男が現れれば、私も安心してあの世にいけるんだけどねぇ」
「残念だけどそんな人は現れないよ。私は未来の父親だけを一生愛し続けるから」
「文香は頑固で困ったねぇ」

　祖父はのどを鳴らして笑い、私の顔をのぞきこむ。

「詳しい事情は知らないけれど、五年たった今でも気持ちが変わらないなんて、未来の父親はよっぽどいい男だったんだろうね」
「うん。本当に素敵な人だったの」

　住む世界の違う、王子様みたいな人。

「それにしても文香。顔色が悪いようだけど、疲れているんじゃないか？　ちゃんと食べてちゃんと寝ているかい？」
「大丈夫だよ」

　祖父の気遣いに無理をして笑顔をつくる。

「未来もおりこうだし、職場も私の事情を知って気を使ってくれているし、大丈夫」

　強がってそう言ったけれど、本当はいっぱいいっぱいだった。
　
　不満や悪意をぶつけられる職場に、将来への経済的な不安。