極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 小さく震える自分の手を見下ろし、ふりしぼるように心にもない言葉をつむぐ。

「この指輪は受け取れない」

 そう告げた瞬間、結貴はひどく傷ついた声で「どうして」と問いかけてきた。

「ほかに、好きな人ができたの」

 私はただそれだけ言って黙り込む。

 まだ大学生だったとはいえ、彼の母にも紹介され結婚を前提に付き合っていた。
 それなのに、『好きな人ができた』の一言で関係を終わらせるなんて、不誠実だと自分でも思う。
 
 だけど、それ以外の言い訳を見つけられなかった。嘘でも彼を嫌いになったなんて言えなかったから。

 込み上げてくる涙を必死にこらえ「別れたいの」とつぶやく。
 自分で言ったはずなのに、心が引き裂かれるように痛んだ。
 
 理解できないと食い下がる彼に、何度も「別れてください」と繰り返す。

「……わかった」

 静かなため息のあとに、結貴がそう言った。
 その瞬間、泣いてすがりつきたくなった。
 
 嘘だよ。
 本当は大好きだよ。
< 2 / 197 >

この作品をシェア

pagetop