極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 五年たって大人の色気と余裕を身に着けさらに魅力的になった結貴とは反対に、私は出産して育児に追われ、洋服にもメイクにもお金も手間もかけられずすっかりくたびれてしまった。

「からかってないよ。すぐ動揺して真っ赤になるところとか、本当にかわいい」

 甘い声で言われ、胸がしめつけられる。

 落ち着け。動揺するな。
 海外で五年も暮してきた結貴にとって、こんなのあいさつ代わりの社交辞令なんだから。

「指輪はしていないけど、文香はまだ独身?」
「結婚はしていないけど……」
 
 結婚はしていないけれど、子供はいる。
 そう伝えたら、面倒なことになりそうな気がする。
 
 だって、万が一未来が結貴の子供だと知られたら……。
 
 想像して背筋がぞくっと冷たくなった。
 彼の母親から言われた言葉が耳の奥によみがえり、心が冷えていく。

「ごめん。私、急いでるから。助けてくれて、ありがとう」
「文香」

 結貴の視線を振り切るように背を向け、かけ足で階段を下りた。
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