極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています

結貴side



    




結貴side
        




 俺はステンレスのボトルを片手に「失礼します」と声をかけて病室に入った。
 ベッドの上にいた老人が「おや」と眉を上げる。

「突然すみません、文香さんの忘れ物を届けたくて」
「忘れ物?」
「先ほど廊下で文香さんに会ったんですか、これを忘れて行ってしまったんです。おじいさまのお見舞いに来たと言っていたので、病室を聞いて届けに来ました」

 事情を説明して文香のボトルを差し出すと、老人は納得したように微笑んで受け取った。

「そうでしたか。わざわざありがとう。あなたは、文香のお友達かな?」
「葉山結貴と申します。大学時代の友人で、五年ぶりに再会しました」

 彼は「五年ぶり……」とつぶやいた。
 まるでなにかの面影を探すように、俺の顔をまじまじと見つめる。

「五年間、文香とはまったく連絡をとっていなかったんですか?」
「ええ。イギリスに留学してそのままそちらで働いていたので。半年前に帰国したんです」

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