極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています




 私と結貴は今から六年前に出会った。
 二歳年上の御曹司である結貴は、当時私が通っていた短大の近くの名門大学の三年生で、みんなの憧れの存在だった。
 
 高校時代に母を亡くし母が残した保険金と祖父の援助、そしてバイト代でなんとか短大に通っていた私とは別世界に住む人だった。
 
 交わるはずもない人生だったのに、私がお茶を入れたマイボトルを公園のベンチに忘れ、それを結貴が拾ってくれたことで言葉を交わすようになった。




『これ、君の忘れ物?』

 聞き覚えのない声に振り返ると、背の高い男の人が私のボトルを持っていた。

 さっきまで座っていたベンチに忘れていたんだ。
 気づいてお礼を言おうとした私は、言葉に詰まった。

 目の前に立っているのが、学校内でも有名な御曹司の葉山結貴だったから。

 動揺しながらボトルを受け取ると、結貴は『中身なに入ってるの?』と気取らずに話しかけてくる。

『家で炒ったハト麦茶が』

 そう言いかけてハッとする。
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