極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 こうやって家で淹れたお茶を持ち歩く私は、友達にいつもお年寄りみたいと笑われていた。
 
 きっと彼にも馬鹿にされてしまうと思い頬が熱くなる。

『私、母を亡くしていて祖父とふたり暮らしだから、少しでも体にいいものを口にしたほうがいいと思って』

 早口で言うと、結貴は不思議そうに首をかしげた。

『た、短大で栄養学を勉強しているんです。ハト麦って免疫力を上げてくれるし、おじいちゃんの神経痛にもいいらしいし……』

 聞かれてもいないのにそんな言い訳を並べたけれど、話せば話すほど墓穴を掘っている気がする。
 けれど結貴はそんな私を馬鹿にしなかった。

『へぇ。ハト麦がそんなに体にいいなんて知らなかった』

 感心したように言ってから、わずかに声のトーンを落とす。

『お母さんを亡くしたって、どうして?』
『胃ガンで。見つかったときには手遅れで、あっという間でした』
『そっか、ガンで……。それは悲しかったね』

 悼むようにつぶやいてまぶたを伏せる。
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