極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 たしかにシンデレラみたいだ。
 高貴な王子様と灰かぶりのシンデレラとの身分違いの恋。
 
 決定的に違うのは、物語がハッピーエンドで終わらなかったこと。


 涙がこみ上げてきそうになり、私はぐっとこらえて笑顔を作った。

「そうね。ママは王子様みたいに素敵なパパと恋に落ちて、そして未来が生まれたのよ」

 小さな額にキスをする。

「さ、そろそろ寝ようか。電気消すよ」
「はぁい」

 手を伸ばし、照明からのびるヒモを引っ張る。
 しばらく暗闇の中で未来の横顔を眺めていると、静かな寝息が聞こえてきた。

 うっすらと開いた唇から、くうくうと吐息が漏れる。
 その可愛らしい寝顔に愛おしさがこみあげる。

 私はそっと布団から抜け出し、ひんやりと寒いリビングに出た。

 洗濯や洗い物、明日の保育園の支度。
 未来が寝ている間にやらなきゃいけないことはたくさんある。

 けれど気持ちの整理ができない私は、薄暗い部屋の中、普段は開けない引き出しに手を伸ばした。

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