極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 祖父が穏やかに首を振ったとき、コツコツとドアがノックされた。

「はい。どうぞ」
 
 祖父が答えると、背後の扉が開く音がした。

「失礼します」
 
 聞こえてきたのは落ち着いた男性の声。
 振り返った私は、そのまま固まってしまった。

「うそ……」とつぶやいて、言葉が出なくなる。

 そこに立っていたのが、結貴だったから。

「あぁ、葉山さん。悪いね、わざわざ」

 にこやかに言った祖父に、結貴は「いえ」と微笑みながら病室に入ってきた。

「どうしてここに……?」

 パニックになりながらつぶやくと、祖父がおだやかな口調で説明してくれる。

「この前、文香が帰ったあとに忘れ物を届けてくれてね。せっかくなら直接文香に返してやってくださいとお願いしたんだよ」
「忘れ物?」

 私の前に見慣れたステンレスのボトルが差し出された。
 いつも愛用しているボトルだ。

「階段で落としたまま、忘れていったから」
「あ、ありがとう……」

 お礼を言いながら受け取る。
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