極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 それでも好きだと言ってくれる結貴に、喜びで胸が震えた。


 だけど……。

 私はぐっと唇をかみしめ、結貴の胸を押し返す。

「……ごめんなさい」

 絞りだした言葉は、かすれて震えていた。

「文香」
「私は、未来の父親のことを愛しているの」
「でも、彼はもう……」

 結貴の言葉をさえぎって、涙声で続ける。

「二度と会えなくても、結ばれなくても、それでもいいって覚悟をして未来を産んだの。あの子の父親を本当に愛していたから。私はこれからもずっと、その人だけを愛し続けるから」

 言いながら、苦しくて切なくて泣きたくなった。

 素直にあなたが好きですと伝えられたら、どんなに幸せだろう。

 だけど、結貴と私の仲を認めてもらえるはずがない。
 私は葉山製薬の後継者の妻にふさわしくないから。
 
 五年前、別れた後で私が結貴の子供を産んでいたと知られれば、間違いなく責められる。
 それだけじゃなく、未来を取り上げられるかもしれない。
 
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