極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「それにしても、イギリスでどんな美女に言い寄られても一ミリも動じなかった結貴が、元恋人にはこんなに必死になっているなんて、愉快すぎる」

 アランは運転しながら楽しそうに声を上げて笑う。

「プロポーズするほど本気で想っていたんだから、必死になるのは当然だろ」
「へぇ。プロポーズしてたんだ? イギリスに来る前に?」
「あぁ。俺の母にも紹介していたし、お互いに結婚の意志はあると思っていた。だけど、渡した指輪を受け取ってもらえなかった」

 うちの両親は仲が悪く、父は滅多に家によりつかなかった。
 両親が顔を揃えるのは親族の行事に参加するときくらいで、子供の頃から冷え切った夫婦関係を見せられるのが苦痛だった。
 
 だから、温かい家庭に憧れていた。
 文香に出会い、彼女と家族になりたいと心から思った。
 
 それぞれ孤独を抱えながら育ってきたからこそ、お互いに支えやすらぎを与えあえると思った。
 
 将来結婚したいという意思を伝え、彼女もよろこんでくれていたはずなのに。

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