極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています

　秋が深まってきたこの季節、板張りの床はひやりと冷たくて一歩踏み出して「ひゃっ」と小さく首をすくめる。
　
　慌ててスリッパを探し履いてから洗面所へ向かう。
　
　顔を洗いタオルで拭くと、鏡の中の自分と目が合った。

　生まれつき明るい栗色のクセのないサラサラの髪。
　肌が丈夫なのもあって、普段からメイクは必要最低限しかしない。
　身長は平均的。
　
　私、白石文香はごくごく普通の二十六歳だ。
　
　ただひとつ付け加えるなら、私は未婚のシングルマザー。
　四歳になる娘を、女手ひとつで育てている。

　父親は、大学時代付き合っていた二歳年上の恋人、葉山結貴。
　彼からのプロポーズを断った直後に彼の子を身ごもっていることが発覚し、結貴には告げずにひとりで産んだ。

　突然の妊娠に驚いたけれど、少しも迷わなかった。
　この子は神様がくれたプレゼントだって思ったから。
　
　二十時間以上にもおよぶ難産の末、ようやく愛しいわが子と対面したときの感動は、一生忘れられない。