極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 大きなため息が出そうになって、ぐっと唇を引き締めた。
 
 弱気になってどうする。
 私は未来のたったひとりの親なんだから、しっかりしなきゃ。
 
 そう自分に言い聞かせると、肩を抱く温かな腕の感触がよみがえった。
 
 結貴に肩を抱かれ、『今でも文香が好きだ』と告げられたことを思い出す。

 本当にうれしかった。
 でも同時に、真実を隠している自分に罪悪感がこみあげてきてどうしようもなく苦しくなった。
 
 どんなに結貴を好きでも彼の気持ちにこたえることはできないし、未来が彼の子供だということも知られるわけにはいかないんだ。
 
 もう、彼とはかかわらない方がいい。
 
 もともと住む世界が違うんだから、会うことはないだろうけど。


 祖父の病室につくと、未来は背負っていたリュックからスケッチブックを取り出した。

「おじいちゃん、きょうはみらいが絵をかいてあげるね」

 未来はベッドの隅にちょこんと腰かけ、色鉛筆を小さなテーブルの上に並べる。
 
< 53 / 197 >

この作品をシェア

pagetop