極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「お礼をしないといけないのはこっちの方だよ。下心ありでお見舞いに行ったんだから」
「下心?」

 私が繰り返すと、結貴は柔らかく微笑む。
 ベッドから立ち上がりこちらに近づいてきた。

「文香さんが好きで彼女とまた会いたいから協力してもらえませんかって、お願いに行ったんだ」

 未来には届かないように耳元でささやかれた。
 体が一気に熱くなる。

「……っ!」

 私は慌てて体を引き、真っ赤になった頬を手で覆った。

 おじいちゃん、そんなことひと言も言ってなかったのに、はめられた! と心の中で文句を言う。

「結貴、前にも言ったけど……」

 私が改めて断ろうとすると、長い指が私の唇に触れた。
 それと同時に部屋のインターフォンがなる。

「料理が届いたようだから、まずは食事をしよう」

 そう言われ、私は口をつぐんでうなずいた。



 結貴が前もってオーダーしてくれていた料理は、どれもおいしかった。
 
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