極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
『子供が産めないなら結婚はやめよう』なんてつらい選択を、結貴にさせずにすんでよかったのかもしれない。

 そして自分が子供を身ごもっていると知ったのは、結貴と別れ彼がイギリスに旅立ったあとだった。
 
 子供を持つのは無理だと諦めていたのに妊娠するなんて奇跡だと思った。
 神様がくれたプレゼントだと思った。
 
 たとえ結貴と結ばれなくても、もう二度と会えなくても、愛する人の子供をひとりで大切に育てていこうと思った。
 
 そのときの気持ちを思い出し、目頭が熱くなる。
 私は慌てて目元をぬぐい、とりつくろうように笑顔を浮かべた。

「大丈夫だよ。あのときはちょっと調子が悪かっただけで、今はすごく元気」
「それならいいけど。文香は昔から頑張りすぎるところがあるから、無理するなよ」

 優しく言われうなずく。
 すると結貴が「おいで」とこちらに手を伸ばした。
 
 ためらいながら近づき、結貴と並んでベッドに腰を下ろす。
 
 秋は夜の訪れが早い。
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