極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 もしかしたら、葉山家の血を引くこの子を取り上げられてしまうかもしれない。
 
 最悪の事態を想像して、ぎゅっときつく目をつぶる。
 ゆっくりと息を吐きだしてから、絞り出すように言った。

「ごめんなさい。元恋人のあなたに、甘えるわけにはいかないから」
「相変わらず、文香は強情だな。俺の顔なんてもう見たくもない?」
「ま、まさか! そんなこと」

 慌てて首を横に振った私を見て、結貴がこちらに身を乗り出した。
 まっすぐに見つめながら、長い指で私の頬をそっとなぞる。

「じゃあ、これからは友人になろう。困ったときはお互いに頼り合えるような」

 その優しい申し出に、私は戸惑いながらうなずいてしまった。

          
            

< 70 / 197 >

この作品をシェア

pagetop