極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「うーん、犬が好きかな」
「じゃあ、わんちゃんの絵、かいてあげるね」

 未来ちゃんは俺の膝から降りてテーブルの前に移動する。
 座布団の上にちょこんと正座をして、開いたスケッチブックに向かい合った。

 隣に座る文香に視線を向けると、真剣に鉛筆を握る小さな背中を優しい表情で見つめていた。
 
 文香はこうやっていつも、ひとり娘を愛情をもって見守り育ててきたんだろう。
 
 その横顔が綺麗で、手を伸ばして触れたくなった。
 動きそうになった手を、なんとか理性で抑え込む。
 
 数時間前ホテルの部屋で、友人としてでいいからそばにいたいと伝えたのに。
 その言葉に嘘はなかったはずなのに。
 
 文香を見ていると、どうしようもなく愛おしいと思ってしまう。
 この腕で抱きしめてキスをして、すべて自分のものにしたいと願ってしまう。
 
 彼女の心の中には、ほかに愛する男がいるのに。
 
 切なさと嫉妬で、胸の奥がこげるような気がした。
          

               


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