極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 言葉を発せずにいる私を見上げ、結貴がこちらに手を伸ばした。
 涙が浮かんだ私の目じりを長い指がそっとなぞる。
 
 結貴はゆっくりと瞬きをして私の顔をのぞきこんだ。
 至近距離で見つめ合ったふたりの間の空気が、濃密になったような気がした。

「思い出すだけでそうやって泣きそうになるほど、今でもそいつのことが好き?」

 低い声でささやかれ、私はかすれた声でつぶやく。

「今でも好きなの。愛しているの」

 ……結貴のことを。

 最後の一言だけは言葉にせず必死に飲み込むと、結貴の整った顔が苦し気にゆがんだ。

 そのとき――。
               

「ちゃんとあらってきたよー」

 無邪気な声にはっとする。
 振り返ると洗面台から戻ってきた未来が、洗った両手を自慢げにこちらにかかげて立っていた。
 
 動揺で声を出せずにいる私の横で、結貴がすぐに笑顔になる。

「上手に手を洗えたね」

 優しい声で未来をほめ頭をなでてあげる結貴を見ながら、私は震える息を吐きだした。

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