極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 そんな純粋な質問に、苦笑して首を横に振る。

「どうだろう。俺は小さいころからこんなふうに父と母と三人で楽しく出かけた記憶がひとつもないから」

 それが当然だと思ってた。
 すべて諦めていたつもりだった。
 だけど今になってようやく、自分が孤独を抱えてきたんだと気づく。
 
 子供だった俺は、ずっとさみしかったんだ。
 
 言葉を詰まらせると、肩に温かみを感じた。
 文香がためらいがちに俺の肩に手を置いていた。

「文香。少しだけ抱きしめてもいい?」

 彼女の優しさに付け込んでそう言った俺に、文香は少し困った顔をしてからうなずく。

 文香の腰に腕を回し抱き寄せた。
 やわらかい髪に顔をうずめ目をつぶると、不思議なくらい心が温かくなる。
 
 すると、俺の膝の上に座っていた未来ちゃんが「みらいも仲間にいれて!」とぴょんぴょん跳ねた。

 そのかわいらしさに、文香と顔を見合わせて思わず笑みをこぼす。
 くすくすと笑ってから左腕で未来ちゃんを、そして右腕で文香を抱きしめる。

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