隣のキミをもっと溺愛、したい。
【一ノ瀬side】

「一ノ瀬くん、
一緒に来てくれてありがとう。

ひとりだったら、
怖くてこの石段も登れなかったと思う」


朱色の鳥居をくぐり、石段をのぼりながら
天野が小さな笑顔を見せる。


天野に無意識に伸ばした手を
ギュッと強く握る。


緊張した顔つきで
小さな体で古い石段を登っていく
天野を見つめて、

足を止めた。


「どうしたの、一ノ瀬くん?」


「天野、もうひとつ、
頼みごとしてもいい?」


「うん! 私に出来ることなら!」


柔らかく笑う天野に、
胸が苦しくなる。


天野、俺だけのものになれよ。


伝えられない想いを胸に秘めて
じっと天野を見つめると、

天野に手のひらを差し出した。


「天野、引っ張って」


「え?」


「俺のこと、上まで引っ張って」


戸惑っている天野に一歩近づき、
天野の小さな手のひらに、

自分の手をそっと重ねた。


首をかしげキョトンとしている天野は

「……宇宙との交信?」

と目を見開いて固まっている。


天野がなにをしても
何を言っても、

もう可愛くてたまらない。


はんと、勘弁してくれ。


重ねた手をわずかにずらし、
天野の指と自分の指をからめて、

ぎゅっと天野の手を握った。


「ひゃっ」


目を丸くして
小さく飛び跳ねた天野をじっと見つめる。


「部活で疲れたから、いい?」


真っ赤な顔をしている天野から、
顔を背けて、石段を無言で登る。


と、隣で息を切らしている天野に気づいて
歩調をゆるめた。


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