隣のキミをもっと溺愛、したい。
その場に漂う気まずさを
振り払うように、

無理やり会話を続けた。


「元中のやつらと、仲、いいんだな」


「先生がすごくいい先生だったの」


「そっか」


柔らかい笑顔を見せた天野に
笑顔で応えると、

天野がふっと目をそらす。


すると、天野がカバンを机に置いて、
ごそごそとなにやら探し始めた。


耳にかけた天野の髪がはらりと落ちて
顔にかかり、

その小さな横顔に、息が止まる。


天野、頼むから
そんな可愛い顔、するなよ。


そんな顔されたら、

天野をこの腕のなかに
捕獲したくてたまらなくなる。

天野に触れたら、
きっと止まらなくなる。


『そのうち教室で押し倒しちゃったりして』


あの日の伊集院の言葉を振り払うように、
頭をぶんぶんと振る。


「一ノ瀬くん、どうしたの?」


「いや、なんでもない」


そのとき、
天野と仲のいい川原朝歌が

教室のドアをバンッと開けた。


「羽衣、なにしてるの? 
みんな待ってるよ」


「あ、ごめん! 
はいっ、一ノ瀬くん、

のど飴、どうぞっ!」


「……え?」


「さっき、咳してたから。
試合、近いんだよねっ。お大事に!」


「あ、ああ」


ニッコリと笑った天野は、

弾けるような笑顔を残して、
パタパタと去っていった。


天野、

行くなよ。

俺のとなりにいろよ。


なんて言えるはずもなく、

帰っていく天野の姿を
教室から見つめていた。


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