隣のキミをもっと溺愛、したい。
突然現れた一ノ瀬くんに、
ドキっと心臓が飛び跳ねる。


「天野、今、ちょっといい?」


朝いちばんの一ノ瀬くんの笑顔がまぶしくて
心臓がとたんに駆け足になる。


「うん?」


「ちょっと、こっち来れる?」


一ノ瀬くんに呼ばれるまま体育館に入り、

緊張しながら
一ノ瀬くんの後ろをついて行く。


まだ早い時間のせいか、
体育館にも校庭にもひとはいなくて、

学校全体が静まり返っている。


一ノ瀬くんの背中を追って用具室に入ると、
一ノ瀬くんが用具室の重い扉を閉めた。


「この時間は、だれも来ないから」


「う、うん」


ぐるりと見回すと、用具室には

バスケットボールやバレーボール、
ユニフォームと書かれた段ボールや
得点表などが所狭しと置かれている。


ドキドキしながら見上げると、
一ノ瀬くんは
目を輝かせて楽しそうに笑っている。


「あのさ、天野がこの前数学資料室で言ってた
『なんでもするよ』ってまだ有効?」


「もちろん!」


これまで、どれだけ数学で
一ノ瀬くんに迷惑かけてきたことか!


そう思いつつもスカートの裾を
ぎゅっとつかんで、呼吸をととのえる。

な、なんだろうっ。

こんなところに、
一ノ瀬くんとふたりきりなんて、
ものすごく緊張するっ。

静かだし、だれもいないし。

心なしか一ノ瀬くん、近いしっ!


「じゃさ、頼み事してもい?」


「うんっ」


なんとか平静を装って答えると、

安心したように
一ノ瀬くんが
嬉しそうな笑顔を見せる。


うっ…
そのキラキラとした子どもみたいな笑顔、
反則だよっ。


なんだか恥ずかしくなって、
思わずパッと目をそらす。

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