読めないあなたに小説を。
去年初めてこの坂を目にした時は
ハナから上れるはずがないと泣きそうになって、憂鬱だったけれど、
2年目にして慣れてしまった。
慣れたとはいえ、息が上がらないかと言われたらそれは別問題だけれど、
行きたくないと駄々をこねることはなくなった。
今日もはぁはぁ息を切らせながら上って、
なんとか校舎の中に入ることが出来た。
今日から新学期。
クラス替えの表を見るために玄関先に生徒が集まっている。
その中に何気なく混じって自分の名前を確認した。
―紫月朱莉
2年1組の真ん中あたりに早々に見つけて、下駄箱へと移動する。
外では「同じクラスだねー」「分かれちゃったよ」「遊びにきてよ?」
などと賑やかな声が聞こえている。
その声を背に自分の下駄箱を開いてローファーをその中に入れ、
バッグの中に入れておいた青色の上履きに履き替えた。
階段の脇に購買があって、そこへ吸い込まれるように歩いて行く。
設置されているゴミ箱に飴玉の棒を捨てて購買の棚に目を向けると、
去年と変わらないおばちゃんが商品を並べていた。
「おばちゃん、おはよう」
「あら、朱莉ちゃん。おはよう。今日もいつもの?」
「はい。いただきます」
にっこり笑ってお金を差し出すと、
おばちゃんは桃の絵が描いてある缶ジュースを
冷蔵ケースから取り出してお金と交換した。
「いつも飽きないねぇ。美味しいかい?」
「はい。大好きです」
「それは良かった。勉強、頑張ってね」