読めないあなたに小説を。
おばちゃんにお礼を言って階段を上がる。
去年より1階分上がる段数が少ないことはいいことだ。
貧血気味なのでふらつかないように手すりに摑まって上がっていく。
フロアに着いて一息ついた。
そのまま廊下を歩いて、目的の教室へ向かう。
2年1組は一番手前の教室だった。
扉に手をかけてぐっと力をこめる。
けれど、なかなか開けることが出来ない。
ごくりと唾を飲み込んでぎゅっと目を閉じた。
どうしよう、早く開けろ。
簡単なことじゃない。
私は、去年とは違う。生まれ変わるんだから。
もう一度目を開けて一気に手に力を入れた瞬間、
内側から扉が開けられた。
驚いて前のめりに倒れていくと、ドン、と誰かにぶつかった。
顔を思い切り打ちつけて痛み出す。
おでこを押さえてぶつかった人物を見ると、
少し見上げる位置に顔があった。
あっ、と思う間もなく、派手な舌打ちが聞こえた。
「あぶねぇだろ。気ぃつけや」
「あっ、す、すみません」
ドクドクと鼓動が早まる。
ぐるぐると色んな言葉が頭に浮かんでは消え、
そのまま何も言えずに立ち尽くしていると、
その人は私を冷たい目で見下ろした。
ワインレッドの髪が目立っている。
制服を格好良く着崩した男の子だった。
切れ長の瞳は気怠そうに開かれている。
その眼光の鋭さに怯えた私は、身を縮ませて俯いた。
「邪魔や。いつまで突っ立っとる気や。はよどかんかい」
「えっ、あっ、ごめんなさい……」
そこで初めて、この人は教室を出ようとして
扉を開けたということに気付いて、慌てて体をどかした。
その子は私をちらりと見て、
そのまま廊下へと歩いて行ってしまった。
教室に1歩入った途端、
胸の奥がざわざわし始めた。
私は変わるつもりだったのに。
これじゃあ、去年と何一つ変わらない。
そのことに自己嫌悪して、気持ちが悪くなってきた。
吐き気はあるけど、吐いてしまうほどではない。
唾を飲み込み、適当に空いている席へと座った。
ここまで来るのに、とてつもない精神力を使った気がする。
もうすでに帰りたくなったけれど、
ここで負けたら今までの苦労が水の泡だ。
でも、さっきの男の子との一件で完全に感情が乱れてしまった。