好き、なんだよ。
ふと顔を上げると、目の前に彼の足が見えた。


いつの間にこんなに長く、たくましくなったのだろう。


なんて言っておきながら、去年も同じクラスだったのに、何も感じることもなかったのかな。


彼がしゃがみこむ。


連休中に染めたであろう髪の毛の色は濃い目の茶色だった。


先生のいう通りにしているあたり、本当に天然真面目なんだなと分かる。



「似合ってるよ」


「は?」


「髪だよ」


「あ、ああ」



髪色を誉められるなんて思ってもいなかったのだろう。


あっけらかんとしていた。



「あのさ、朽木...」



話しかけるなんて珍しい。


また、怒られるのかな。


そりゃあ、そうだよね。


迷惑かけたんだもん。


ごめん...。


視線を反らすと、彼の手が目に入った。


爪が紫色になっていた。


たぶん相当寒いんだ。


先生早く来ないかな。


私は何かないかとリュックをあさる。


だけど、もう何もない。


全部びしょ濡れだ。


リュックが洪水になっていた。



「聞きたいことがある」



まさか、ここに来てまで、


あの日のことか。



「何?」


「あの日...。あの日なんで朽木は夏音の...夏音の私物を...」



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