好き、なんだよ。
女子2人の意味不明なやり取りに、クールな樋口くんは引き気味だったが、やがてぼそっと呟いた。



「大丈夫かなって...」


「へ?」


「誰が大丈夫だって?」


「だからさ...」



ちらりと私に視線を流す。


わ、私?



「ぐっちー、ちゃんといいなよ」


「その呼ばれ方ムカつく」


「それはいいから、ほれほれ早く」



今度はばっちり目が合った。


少しつり上がった目尻が美しいなんてこのタイミングで思ってしまう。



「朽木さんが香西くんの真ん前だから心配してるんだよ」


「だってさ」



樋口くん、心配してくれてたんだ...。


確かに、部室に来て泣いたこともあったし、そりゃ心配か。


樋口くんに余計な心配させちゃってる。


謝らなきゃ。



「心配させてごめん。でも大丈夫だから」



私がそう言うと由紀ちゃんは私の左手を握ってくれた。


驚いて由紀ちゃんを見ると、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見つめていた。



「あたしだってすっごく心配してる。クラス離れちゃったし、絶対奈和、香西に無視されて嫌味言われて耐えて耐えて...辛い思いしてるんだろうなって。そう考えたらなんか...辛くて」


「由紀ちゃん...」


「あたしの代わりにぐっちーが奈和のこと守ってね。頼むわ」



いやいや、そんな。


守るなんてそんなこと...。


申し訳なさ過ぎるよ。


同じ部活ってだけなのに。


私が全面的に悪くてこうなってるのに。



「分かった...」



そう一言呟いて樋口くんは去っていった。


バタンっという鈍い衝撃音が静けさの中で鮮明に響いた。


< 29 / 509 >

この作品をシェア

pagetop