陽だまりに包まれて
私達は、お隣さん同士でした。
「歩くん、おはよー」
「灯ちゃん、おはよ~」
夢や希望を一杯にして、手を繋いで幼稚園に行きます。
仲のいい私達は、二人でいることが自然でした。
小学生になっても、それは変わりませんでした。
ですが、悲しい出来事が起きてしまいました。
歩くんが、引っ越しをしてしまうことになったのです。
最後の日には、二人で泣きました。
そうして、お手紙を出し合うことを約束しました。
字の大きさが、バラバラでした。
文は、斜めでした。
それでも、それは途切れることなく続きました。
中学では、電話もLINEもするようになりました。
でも、「手紙が一番だね」と、どちらからともなく言いました。
字のバランスが、よくなっていました。
文は、真っすぐになっていました。
「好きだ。付き合って欲しい――」
二年生の夏休み、歩くんから告白をされました。
ほとんど会うことのない私に、伝えてくれました。
涙が止まりませんでした。
ポロポロ ポロポロ……。
私は、「うん!」と大きく返事をしました。そして、嬉しい気持ちを直ぐに認めました。程なく同じ想いが読めて、幸せを噛み締めながら函に仕舞うことが出来ました。
――高校生になった、私達。
「直ぐに治すから、待ってて!」
脳に異常が見つかったそうです。
手術することを、歩から聞かされました。
私は結果を待ちました。
〈――成功!〉
LINEが届きました。
けれど、電話には出られないようです。
〈手紙だすね!〉
暫くして、届きました。
「え……」
やりとりを始めた頃のようでした。
字の大きさが、バラバラでした。
文は、斜めでした。
私は、手紙を抱えて泣きました。
ポロポロ ポロポロ……。
〈すぐになおすから、まってて!〉と、書かれてあります。
悲しくなんか、ありません――
『いらっしゃいませ!』
私は、アルバイトを始めました。
歩から、「来ていいよ」と言ってくれる日を楽しみに。
少しでも力になれるように。
私は、どんな歩でもいいんだよという気持ちを伝えたいです。けれど、一生懸命リハビリをしていることを思えば、押し付けの感情になってしまうのが嫌で仕舞っておくことを選びました。
「あ、かり。ひさ……し、ぶり」
指折り数えて、やっと会えました。
歩は、ゆっくりと喋りました。
歩は、ゆっくりと動きました。
私は、唇を尖らせ「早く呼んでよ」と言いました。
「すぐ……げんき、なるから……まってて……!」
歩は、笑顔で言いました――。
私は、大学三年生になりました。
たくさん泣いて、今があるような気がしています。
その全てが、大切な想い出です。
『見せたくなかったから……』
癇癪を起こす彼に、掛ける言葉が見つからない時がありました。
自暴自棄な姿を見て、涙を堪えることが出来ない時がありました。
言葉の続きが、聞かなくても痛いほど伝わってきていました。
昼下がりの、穏やかな陽気です。
私は心の中で謝りながら、これ以上の迷惑をかけないようにしようと思いました。そして、一瞬一瞬を大切にしようと決めました。
彼は、途切らすことなく手紙を続けてくれました。
出来ることが増えていく度に、喜びを分かち合ってもくれました。
陽だまりが、暖かいです。
あのとき別れを告げられていたら、今の私では無かったでしょう。ぽっかりと心に穴を開けて、膨大と感じる時に身を任せていたことでしょう。
彼には、それが分かったんだと思います。
だから、「さよなら」ではなく、「まってて」を選んでくれたんだと思います。
「歩、遅い!」
駆け寄る姿に努力の結晶を見るようで、尖らせていたはずの私の唇は、笑顔を模《かたど》っていました。
「ごめん、ごめん」
彼がショルダーバックに手先を入れます。
私も自分のトートの中身に指を伸ばします。
「ありがとう。はい」
「サンキュ」
私達は、手紙を渡し合い大切に仕舞いました。そして、これからの予定を確認していると私の就活にまで話が及んだので、その先のことを考えようとする自分に気が付いた私は、直ぐに途絶えさせました。いつものように、求めるものが大きくなっていることに気付かない振りをして途絶えさせました。
すると、彼が真剣な表情で言いました。
「俺が通信終わって大学入って卒業して、長いけど就職するまで、待っててくれないか?」
世界が、いっそう輝きました。ずっと傍にいたいと願っていた私のこれからに、夢のように続く道が、はっきりと見えたのです。
滲む視界で、私は真っすぐ尋ねました。
「手紙は、続けてくれる?」
私達は、せーので答えました。
「――うんっ!!」
そうして、夢や希望を一杯にして、私達は手を繋いで歩いて行きます。
<陽だまりに包まれて~了~>
「歩くん、おはよー」
「灯ちゃん、おはよ~」
夢や希望を一杯にして、手を繋いで幼稚園に行きます。
仲のいい私達は、二人でいることが自然でした。
小学生になっても、それは変わりませんでした。
ですが、悲しい出来事が起きてしまいました。
歩くんが、引っ越しをしてしまうことになったのです。
最後の日には、二人で泣きました。
そうして、お手紙を出し合うことを約束しました。
字の大きさが、バラバラでした。
文は、斜めでした。
それでも、それは途切れることなく続きました。
中学では、電話もLINEもするようになりました。
でも、「手紙が一番だね」と、どちらからともなく言いました。
字のバランスが、よくなっていました。
文は、真っすぐになっていました。
「好きだ。付き合って欲しい――」
二年生の夏休み、歩くんから告白をされました。
ほとんど会うことのない私に、伝えてくれました。
涙が止まりませんでした。
ポロポロ ポロポロ……。
私は、「うん!」と大きく返事をしました。そして、嬉しい気持ちを直ぐに認めました。程なく同じ想いが読めて、幸せを噛み締めながら函に仕舞うことが出来ました。
――高校生になった、私達。
「直ぐに治すから、待ってて!」
脳に異常が見つかったそうです。
手術することを、歩から聞かされました。
私は結果を待ちました。
〈――成功!〉
LINEが届きました。
けれど、電話には出られないようです。
〈手紙だすね!〉
暫くして、届きました。
「え……」
やりとりを始めた頃のようでした。
字の大きさが、バラバラでした。
文は、斜めでした。
私は、手紙を抱えて泣きました。
ポロポロ ポロポロ……。
〈すぐになおすから、まってて!〉と、書かれてあります。
悲しくなんか、ありません――
『いらっしゃいませ!』
私は、アルバイトを始めました。
歩から、「来ていいよ」と言ってくれる日を楽しみに。
少しでも力になれるように。
私は、どんな歩でもいいんだよという気持ちを伝えたいです。けれど、一生懸命リハビリをしていることを思えば、押し付けの感情になってしまうのが嫌で仕舞っておくことを選びました。
「あ、かり。ひさ……し、ぶり」
指折り数えて、やっと会えました。
歩は、ゆっくりと喋りました。
歩は、ゆっくりと動きました。
私は、唇を尖らせ「早く呼んでよ」と言いました。
「すぐ……げんき、なるから……まってて……!」
歩は、笑顔で言いました――。
私は、大学三年生になりました。
たくさん泣いて、今があるような気がしています。
その全てが、大切な想い出です。
『見せたくなかったから……』
癇癪を起こす彼に、掛ける言葉が見つからない時がありました。
自暴自棄な姿を見て、涙を堪えることが出来ない時がありました。
言葉の続きが、聞かなくても痛いほど伝わってきていました。
昼下がりの、穏やかな陽気です。
私は心の中で謝りながら、これ以上の迷惑をかけないようにしようと思いました。そして、一瞬一瞬を大切にしようと決めました。
彼は、途切らすことなく手紙を続けてくれました。
出来ることが増えていく度に、喜びを分かち合ってもくれました。
陽だまりが、暖かいです。
あのとき別れを告げられていたら、今の私では無かったでしょう。ぽっかりと心に穴を開けて、膨大と感じる時に身を任せていたことでしょう。
彼には、それが分かったんだと思います。
だから、「さよなら」ではなく、「まってて」を選んでくれたんだと思います。
「歩、遅い!」
駆け寄る姿に努力の結晶を見るようで、尖らせていたはずの私の唇は、笑顔を模《かたど》っていました。
「ごめん、ごめん」
彼がショルダーバックに手先を入れます。
私も自分のトートの中身に指を伸ばします。
「ありがとう。はい」
「サンキュ」
私達は、手紙を渡し合い大切に仕舞いました。そして、これからの予定を確認していると私の就活にまで話が及んだので、その先のことを考えようとする自分に気が付いた私は、直ぐに途絶えさせました。いつものように、求めるものが大きくなっていることに気付かない振りをして途絶えさせました。
すると、彼が真剣な表情で言いました。
「俺が通信終わって大学入って卒業して、長いけど就職するまで、待っててくれないか?」
世界が、いっそう輝きました。ずっと傍にいたいと願っていた私のこれからに、夢のように続く道が、はっきりと見えたのです。
滲む視界で、私は真っすぐ尋ねました。
「手紙は、続けてくれる?」
私達は、せーので答えました。
「――うんっ!!」
そうして、夢や希望を一杯にして、私達は手を繋いで歩いて行きます。
<陽だまりに包まれて~了~>