君の声
次のホテルに電話をしようとしたその時、オフィスの扉が勢いよく開いて誰かがものすごい勢いで走って入ってきた。
私はびっくりして人の入ってきた方を見た。
そこには、肩を上下させ息が乱れた山田さんがいた。
「山田さん……」
『すみません! うちの岡本がやらかしたみたいで!さっき岡本から電話があって、それで戻って来ました。』
「え……」
『俺も手伝います。何をすればいいですか。』
今、目の前にいる山田さんの声は、私の知らない山田さんの声だった。
荒々しくて、男らしくて、頼もしい声………
そして、その声を発する山田さんは、昼間には品良く整えられていたオールバックの髪が、今はすっかり乱れ、彼の愛らしい眉毛を隠していた。
そのせいなのか、昼間に見た王子様の山田さんの容姿とは違っていた……。
濡れたような乱れた前髪の間からのぞく男らしい目元に、乱れた息を隠すような熱い息づかい………。
色っぽい…………
つい見とれてしまう……
ダメダメ!
わたし!
頭を切り替えろ!
私は手元のホテルリストを見ながら、ドクンドクンと激しく打ち続ける心臓を手で押さえつけ、現状を山田さんに説明した。
「今、セミナー近辺のホテルに問い合わせています。ここから、ここまでは満室です。なので、山田さんはここから問い合わせしてください。必要な部屋数はシングル5部屋です。」
『はい、分かりました!』
そう言うと山田さんは颯爽とジャケットを脱ぎ、林さんの席に座り電話をかけ始めた。
その全ての動作がまるで映画のワンシーンのようで……
私はまた、つい見とれてしまった……
今、私のすぐ横で山田さんが仕事をしている…
今、私のすぐ横で山田さんが電話をしている…
いつもは電話越しに聞いていた山田さん声。
でも、今は電話越しではなく、直接、私の耳に届く。
真剣な眼差しで話す山田さんの横顔……
美しすぎる横顔……
ダメダメ!
なに見とれてるの私!
さ、早く電話、電話!
そう、自分に言い聞かせて受話器を取った。