君の声
電話をかけ始めて30分もしないうちに、山田さんが問い合わせていたホテルに空室が見つかった。すぐに山田さんは5部屋を予約し、急な予約を快く受けてくれたホテル側に丁寧に御礼を言って電話を切った。
そして、そのあとすぐに岡本さんに電話をいれると安心したように受話器を置いた。
なんて仕事が出来る人なの……
受話器を置いた山田さんは、ヨッシ!といって小さくガッツポーズをした 。
その姿があまりにも可愛くて、私はつい笑ってしまった。
私の笑い声に反応したのか、山田さんがくるりと体を私の方に向けた。
『えっ? 何か可笑しかったですか?』
私はすぐさま平静を装った。
すると、山田さんはこちらを向いて立ち上がった。
『本当にすいませんでした。俺がもっと岡本のことしっかり見ていれば。』
そう言うと、深々と頭を下げる山田さん。
そんな、まさか山田さんに頭を下げられるとは思いもしておらず、びっくりしてしまった。
「そんな、頭をあげてください。こちらこそ、山田さんのお陰ですぐにホテルを予約出来て助かりました。ありがとうございます。」
と、わたしはうつむき加減でお礼を伝えた。
『いえ。本当に岡本には、しっかり指導しておきます。』
「いえいえ…………」
と、急に山田さんが何か思い出したように、目と口を大きくした。
『あ、しまった、懇親会! 行きますよね?』
「え、あ……」
『なんかすっごく美味しそうな料理が出てましたよ。もうみんな食べ始めていたから、早く戻らないとなくなっちゃいます!』
とても楽しそうに話す山田さん。
その時、急に思い出した。
そうだ、わたし山田さんに謝らないと………
どうしよう………
そんな私をよそに山田さんはジャケットをはおり
『外で待ってます』と言い残して、オフィスの出入口の方へ歩いていってしまった。
………………
………よし……………謝ろう。
山田さんに素直に謝る決心をした私は、急いでデスク回りを片付け戸締まりをし、明かりを消した。
そしてオフィスの出入口へと向かった。