君の声
と、突然エレベーター内に明かりがついた。
その瞬間、私の視界に入ってきたのは、美しすぎるほどの切ない顔をした山田さんだった。
私は山田さんの切なくも熱い眼差しから視線をそらせなかった。
山田さんが私を見る。
私は山田さんを見る。
間もなくして、エレベーターが動き出すアナウンスが流れ、私たちを乗せたエレベーターは静かに下へ下へと動き出した。
私は涙で濡れた頬を手で拭った。
そんな私の様子を、山田さんが何か言いたげに見ている。
『…………あの……』
私は山田さんに何か言われる前に、涙の理由を聞かれる前に切り出した。
「山田さん、耳が真っ赤ですよ!」
と涙を隠しながら、山田さんをからかった。
山田さんは何か言いたそうだったが、言葉を飲み込んだと思ったら、泣き笑いのような笑顔になった。
『それ言わないで下さい……俺すぐに耳赤くなるんですよ。いや、ほんっと俺、恥ずかしいこといっぱいしゃべっていましたよね………ちょっと、まじ恥ずかしい!』
山田さんは私の涙の訳を聞こうとはしなかった 。
そんな、笑顔で照れながら話す山田さんの口調は、いつもと違っていた。
なんだか、少し甘えん坊な男の子みたいになってる…………。
今までの品のある声の山田さんも好きだけど、こっちの声の山田さんも………………好き。
突然、好きという自分の気持ちに気付いた私。
山田さんの声が好き………?
山田さんのことが……好き……?!
好きの気持ちに気付いたとたん、不思議なことに、気持ちが急に軽くなって……胸に詰まっていた物がすーっと取れていった。
自分で自分が可笑しくなった。変なプライドやキャリアが私の心を素直にさせなかったらしい。
でも、山田さんの素直な言葉を聞いているうちに、そんなものは何処かへ行ってしまった。
思わずくすっ、と笑いが漏れた。
『あ! 今、笑いましたね! …………かわいい……』
え……
『あーーーまじ何しゃべってんだろ俺!あーーーやばい、ホント恥ずかしいっ!』
山田さんは赤い耳をさらに赤くさせ、ふにゃふにゃになった顔を恥ずかしそうにそらした。
ピンポン♪
エレベーターが1階に着いたことを知らせる音が、私たちの会話を終了させた。