君の声
ほんの10分程の出来事だったのに、とても、とても長く感じた。



そして、とても、とても幸せな時間だった。



私は目の前を颯爽と歩く山田さんの後ろ姿を見て、私が山田さんに言わなくてはいけないことを思い出した。





「山田さんっ!」



『はいっ』




くるりと振り返り立ち止まる山田さん。どんな角度から見ても綺麗な顔立ちだ。

そんな山田さんは、綺麗な瞳でじっと私を見つめる。





胸のドキドキが私をまた襲ってきた。
でも、今回は山田さんから視線を外さなかった。




もう素直になれる。
プライドもキャリアも全部脱ぎ捨てた。




「山田さん、今日は本当に失礼な態度ばかりでごめんなさい。昼間に挨拶をしに来てくれたときも、電話に出てしまってごめんなさい。」




…………………





「…………私、山田さんの声が大好きでした。優しくて、柔らかで、品があって。いつも電話でお話しするの楽しみでした。」





『えっ……』





「でも、私は山田さんに会いたくないと思ってて……素敵な声の持ち主の現実を知りたくなくて……。本当に最低でした。ごめんなさい…………。山田さんが私に会うのを楽しみにしてくれていたと聞いてそれで余計に……自分は最低だと思って……。」







「それに、実際に山田さんに会ったら……その……あまりにも素敵で直視出来なくて…………その……。失礼な態度を取ってしまって……本当にごめんなさい。」





『…………え……うそ…………でしょ……』





「…………会えて良かったです。」





『……良かった…………。本当に良かった……。もう俺、完全に嫌われたと思ってて…………。やっぱ会うんじゃなかったとかまで思ってて…………。』




山田さんの目が少し潤んでいる。その表情があまりにも美しすぎてまた私は見とれてしまった。




山田さんは潤んだ瞳のまま、綺麗な口元をキュッと結び、美しい笑顔を見せてくれた。



そして、山田さんは私の目を見て、あの柔らかで優しく甘い声でこう言った……。






『もっともっと声を聞かせてください。俺の大好きな声を。』




…………山田さん





『…………でも、……もう声だけじゃ足りないかも』





「…………え」




山田さんの甘くて艶のある声で、こんなことを言われて…………





く、苦しい……胸が……締め付けられる……!

この胸が苦しいのは、恋よね…………!?





そして、山田さんが甘くセクシーな顔で私を見つめる……



む、無理っ!

やっぱり、まだ…………まだ私にはこの美しさを直視出来そうもない~!!





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