君の声

そんな林さんを横目に、私は席に着くと、小さく深呼吸をした。





待って待って待って~!

習志野支店の山田さんが来る~!?

あの山田さんがぁ~!?

ここに来る~!?





心臓の音がドキンドキンと身体中に響く。


落ち着け、私!!!
あの美声の持ち主に会えるのよ!
ずっと大好きだったあの声の持ち主に。
どんな人なんだろう。
年齢は26歳って聞いてるけど……


私の中では山田さんは王子様のような存在だ。
美しくて、優しくて、かっこよくて、品があるそんな素敵な…………





でも待って……
もしも、もしもよ
声の印象とはかけ離れた人だったら……
いわゆるギャップってやつね


そうよ、そういうこともあるわよね
うん、十分ありうる!


う~それはちょっとイヤだな………
だって、もしそうだとしたら、今後は「私の理想の山田さん」と電話で話す、という私の楽しみが無くなってしまうではないか。


山田さんには失礼かも知れないけど………
私はやっぱり会いたくないなぁ………
本物の山田さんは知りたくない………
このまま私の理想の山田さんのままでいたい。





いろいろ考えた結果、私は出来るだけ山田さんに会うのを回避しようと心に決めた。


多分、会議室に集まると思うから、デスクで仕事をしていれば大丈夫よね。あまり出歩かないようにしよう。




そんな私の不安をよそに、次から次へと電話が鳴り出し、私はあっという間に仕事に忙殺されることとなった。


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