箱入り娘ですが、契約恋愛はじめました【最終番外編】



乾いた洗濯物をたたみ、母と私のものを仕分け、ソファにどさりと置いた。

「いろは、あなたお風呂上がりにそんな格好をして」

洗い物を終えてキッチンから出てきた母が渋い顔をした。

「え?パジャマだよ?」
「脚が丸出し!」

母はいよいよ厳しい声で私のスネをペシっと叩いた。私が履いているのは中学時代の体育着だったハーフパンツと長袖のトレーナー。けして、ショートパンツの可愛いルームウェアなどではない。なにしろ、ほとんどの荷物はすでに新居に送ってしまったんだもの。

「秋口だからって油断しない。花嫁が風邪ひくわけにいかないのよ」

母はぷりぷり怒らながら自室のクローゼットからスウェットを出してきた。母が若い頃着てたパジャマのそれをハーフパンツの代わりに履く。私の身長だとめちゃくちゃ裾が余るなぁ。よし、くるくる折ろう。

「あなた保湿は!?」

母が思いだしたかのような大声で訪ねてくる。

「いつもの乳液つけたよー」
「花嫁が!いつもの!?メイクが乗らなかったらどうするの!?」

詰め寄る母にひーっとビビる私。またしても自室を往復してきた母は私をソファに座らせ、自分の高級なローションで私の顔やら首やらをパッティングし始めた。

「お母さぁん、そんなにしなくていいよぅ」
「一生に一度の結婚式なのよ。準備に余念がないようになさい」
「お母さんの基礎化粧品じゃ、栄養豊富過ぎて吹き出物出そう……」

ぼそっと呟くと母がぴしりと固まった。次に、口元をひくつかせて笑う。

「あら、若い子アピール。言うようになったじゃない、いろは」
「だって!お母さん気合い入れすぎだよ〜!」

明日、私はハジメさんと結婚式を挙げる。
この家を出て三条いろはから柏木いろはになる。
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