箱入り娘ですが、契約恋愛はじめました【最終番外編】
式も終盤、よくある新婦から両親へ手紙というイベント、私は手紙を読まない選択をした。おそらく母は泣いてしまうだろうし、涙を他人に見せたくはない人だ。

「お母さん、ありがとう。お世話になりました」

手紙を手渡すと、母は涙こそ見せなかったものの、私の身体をぎゅっと抱きしめた。それだけで涙が出てきた。子どもの頃から、母は何度もこうして私を抱き締めてくれた。だけど、三条いろはとして、ただあなたの娘として抱擁を受けるのはこれが最後。
私は柏木いろはになる。人生の伴侶、一緒に歩く人の元へいく。
私はぼろぼろ泣きながら母の腕の感触を味わった。

ハジメさんが最後に挨拶をし、場を締める。営業部のエースの挨拶は堂に入ったもので、さすがとほれぼれしてしまった。
結婚式は、私たちふたりが家族になり、それを誓い披露する儀式なのだ。
恋人同士とは違う。そのことに身が引き締まるような思いと、大勢の人たちに祝ってもらえる気恥ずかしさに、私はずっと唇をむずむずさせていた。

ああ、私、ハジメさんと結婚したんだ。参列者にお辞儀をしながら、今更そんなことを考えた。


その晩、私たちは結婚式を行ったホテルに宿泊していた。諸々の荷物は明日ふたりの新居に運び、婚姻届けを提出し、夜の飛行機で私たちはハネムーンに出発する。
行く先はニューカレドニア。水上コテージに泊まり、海で泳いだり、アクティビティを楽しんでくるのだ。
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