With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
4回戦当日。


私たちがグラウンドに入ると、先攻の東海高校の練習が、間もなく終了しようとしていた。


相手側のブルペンに目をやると、小林雅則が最後の仕上げとばかりに、遠目から見ても、見事な快速球を投げ込んでいる。


「相変わらず、いい球を投げてるな。」


「はい。」


隣のキャプテンと、そんな会話を交わしていると、小林くんがこちらを見て、ニヤリと笑って見せた。自信たっぷりの表情だった。


「大した1年生だ、相手校のマネージャーにアピってやがる。」


「えっ?」


「さ、こっちも負けちゃいられない。星、ブルペン行くぞ。」


「おぅ。」


一瞬苦笑いを浮かべたキャプテンは、星さんに声を掛けるとベンチを出て行く。やがてサイレンが鳴り、練習交代の時間に。


選手達を見送って、ふとベンチを見ると、さっき裏で挨拶を交わした向こうの3年生のマネ-ジャ-が選手を迎えている。ユッコはスタンドで応援、私たちは昨日LINEで健闘を誓い合った。


練習を終わると、いよいよ試合開始。


「さぁ、行こう!」


「行ってらっしゃい!」


いつものようにキャプテンの掛け声と共に、ベンチを飛び出す選手達に、私が声を掛ける。ホームベ-スを挟んでの挨拶の後、ウチのナインが各ポジションに散る。その中に松本くんの姿がある。


ここまでの実績を買われ、今日はついに5番サードで後藤さんに代わってスタメン起用だ。


「もう、誰にも文句はないだろう。」


監督がポツンと呟く声が聞こえる。実力主義を掲げる監督だけど、実際に3年生を1年生と変えるのには、やはりそれなりの配慮が必要なのだろう。


その松本くんの表情はやはり固い、緊張しているのだろう。


「3打席連続ホームランなんて、誰でも打てるものじゃないんだから、自信もって行きなよ。」


さっき声を掛けると


「そんな、大宮みたいに自分に自信が持てる人間ばかりじゃないよ。どう考えても出来過ぎなんだから。でも・・・精一杯やるから、見ててよ。」


そう言って、グラウンドに出て行った。


(頑張って、松本くん。)


私はサードにポジションに向かって、声援を送る。


プレイボ-ルが掛かり、星さんが投じた初球を東海のトップバッタ-がいきなり強振。強烈な打球だけど、サード真正面。ワンアウトいただきと思った次の瞬間、松本くんが大きく打球を弾いてしまい、そのままレフトの河井さんの前まで転がってしまう。エラ-だ。 
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