With you～駆け抜けた時・高1 春＆夏編～

「すみません。」


頭を下げる松本くんに、マウンドの星さんは気にするなというように手を上げる。でもノーアウトでランナ－1塁、いきなり相手の出塁を許してしまった。


「守備の方は相変わらずか。」


ベンチからため息交じりの声が上がる。松本くんの守備の不安は、練習試合の時から指摘されていた。


続く2番は送りバント、サード前に転がって来た打球を勢いよくダッシュして来た松本くんが掬い上げたまではよかったんだけど、ファーストへの送球が大きく逸れて、ファーストの澤田さんが後ろに逸らさないで抑えるのが精一杯。オールセ－フでノーアウト1.2塁。ピンチが拡大してしまう。


「省吾、落ち着け。」


「は、はい。」


たまらずキャプテンが声を掛けるけど、答える松本くんの顔色は蒼白だ。


「松本くん・・・。」


「キャプテンの言う通りだ。練習を見ている限り、松本も守備は決して下手じゃない。なのに試合になると、妙に浮足立つんだ。自分に自信がねぇんだろうな。」


歯がゆそうな佐藤くんの言葉を、聞きながら、私は心配そうな視線を彼に送ってしまう。


｢もう1回来るぞ。｣


監督がポツンと言う。えっ、と私が聞き返す前に、星さんの投球を相手の3番バッターがバントして、打球は三塁側に転がったが、ダッシュよく打球を星さんが掴む。


｢サード！｣


キャプテンの指示に星さんがサードに振り向いて投げようとして、思わず動きを止める。なんとサードはガラ空き、誰も入っていない。


仕方なく、向き直って、ファーストに送球して、間一髪アウトにして、オールセーフという最悪の事態は免れたが、三塁までランナーを進ませたのはやはり痛い。


ピッチャーが打球処理出来そうなら、サードは素早くベースカバーに走らなくてはいけない。それを怠った松本くんのミスだった。


事実上の自分のトリプルエラーで大ピンチとなり、ポジションで俯く松本くん。


｢松本、下向いてるんじゃねぇ。試合中だぞ！｣


ベンチから佐藤くんの檄が飛ぶ。その声にハッとしたように、こちらを見た松本くんは1つ頷くと前を向く。


（松本くん、頑張って・・・。）


私も祈るように、心の中で呟いた。


そして相手の4番バッターが登場。東海応援団のボルテージは早くも最高潮。


そんな中、星さんは決して勝負を避けた訳じゃないけど、四球で出塁を許し、1死満塁。ピンチは拡大する。