With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
5番はピッチャーで1年生ながら、強打を誇る小林くん。


「三塁ランナーは仕方ない。確実にアウトカウントを増やして行け。」


1点は取られても、それ以上の大量失点を防ぐ為の守備体系を指示する監督。


「小林くんはドンドン初球から打って来るタイプ。チャンスの場面では、その傾向が余計強くなる。」


ミーティングでの久保くんの言葉が甦る。それをキャプテンも忘れてはいなくて、初球はフルスイングしにくい外角のボールを要求したけど、小林雅則はそれはお見通しとばかりに、流し打ち。


痛烈な打球がライトに飛んだが、正面で東尾さんがキャッチ。しかし、犠牲フライには充分で東海は1点先取。


相手は喜ぶが、こちらもドンマイと言ったところ。しかしセカンドランナーも三塁に進んで、ピンチはなおも続いている。


6番打者はボールをよく見て来て、際どいストライクをファールして粘って来る。カウントはスリーボールツーストライクのフルカウント。


勝負の球、星さんが投げ込んだ変化球をバッターが捉えた。


「いけない!」


思わず私の口から、そんな言葉が溢れてしまった次の瞬間、松本くんが横っ飛びに打球に飛びつくのが見えた。


「松本くん!」


痛烈な打球は、しかし松本くんのグラブに見事に収まり、サードライナー。スリーアウトチェンジ。


「松本、ナイスプレー!」


「やったぁ。」


佐藤くんと私が、大喜びで松本くんを迎えるけど


「いや、迷惑掛けてごめん・・・みなさん、すみませんでした。」


松本くんは神妙な表情で、みんなに頭を下げる。


「いや、今のは正直助かった。松本、ありがとう。」


「その調子でやれば大丈夫だ。自信持って行け、省吾。」


副キャプテンとキャプテンがさすがのフォローで、松本くんの表情が少し緩む。


「とにかく最少失点で切り抜けた。切り替えて行け。」


「はい!」


監督の言葉に、みんなが答える。


一方


「参ったなぁ。完全に抜けたと思ったのに。」


とぼやきながら帰って来たバッターに


「あんなのただのまぐれ捕りだから、ハードラックですよ。どうせ、あのサードはこの後も、またやらかしてくれますよ。それに1点あれば俺は充分ですから。」


小林雅則は言うと、ニヤリと笑って、マウンドに向かった。
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