With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
1点あれば充分なんて、見下されてるとはつゆ知らず。こちらもすぐに反撃に出たいところだけど、小林雅則を苦手としている大宮くん以下、東尾さん、星さんの3年生2人もあっさりと打ち取られ、三者凡退に退けられてしまう。


さも当然と言わんばかりでマウンドを降りて来る小林くんがまた、私にアピールするかのように、こちらに視線を向けて来るのが、本当にウザい。


「アイツ、相当木本さんに気があるんだな。昔から?」


白鳥くんが呆れたような声を出す。


「知らないよ。だいたい彼には可愛い幼なじみの子が側にいるんだから。」


「彼女持ちなのに、他校のマネージャーに色目使うなんで、とんでもない野郎だな。」


その手の話題には、普段ほとんど食い付いて来ない佐藤くんが、珍しく憤慨している。


「木本の為にも、これ以上、点はやれないぞ。星。」


「任せとけ。」


キャプテンと星さんが、そんなことを言いながら、私に笑顔を送ると、グラウンドに向かって行く。


私のことはさておき、確かにこれ以上の失点はどうしても避けたいところ。


相手の打順が下位に回ったこともあり、星さんは2回は簡単に抑えた。


その裏、こちらは4番のキャプテンから。小林くんのそして投じた初球、快速球がキャプテンの内角にスバッと決まる。ストライクだ。


「いいボールだ。」


白鳥くんがそんな言葉を漏らす。


「相手ピッチャーを褒めてどうするんだよ。」


佐藤くんが思わず噛みつくけど


「奴の表情が明らかに、初回とは違う。そう思わないか?」


と白鳥くん。


「そうだね。」


私が答えると


「小林のことだから、たぶん、この4番にホームランさえ打たれなきゃ、明協に点なんて取られようもねぇくらいに思って投げてるはずだから。」


マウンドに目を向けたまま、白鳥くんは言う。


そう言えば、この前の練習試合の後


「お前のチームはキャプテン以外は大したバッターはいない。」


と言い放たれてしまった。けど、それはつまりキャプテンはいい打者だと認めているということなのだと私は気付く。


そしてカウント2ボール2ストライクから、変化球を低めに決めてキャプテンを三振に仕留めた。


「初めて変化球投げたな。奴をマジにさせられるバッタ-は今のところ、ウチにはキャプテンしかいないってことだ。」


そう言った白鳥くんに


「畜生、舐めやがって。」


佐藤くんがマウンドを睨み付けるけど、その視線の先にいる小林雅則は、ニヤリと笑っていた。
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