With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「でも松本くんは?」


私は尋ねる。今のウチには3打席連続ホームラン中の彼がいる。だけど


「小林の眼中にはまだないだろうな。」


白鳥くんは冷静に答える。私が思わず、その顔を見ると


「だとしたら、この打席はチャンスがある。」


という監督の声が聞こえて来る。えっと、私が今度はそちらの方を向いた瞬間だった。


カキ-ン、耳をつんざくような金属音に、私の視線はグラウンドへ。そして目にしたのは、小林雅則の投じた初球を打ち返した松本くんの姿だった。


「やった!」


私は思わず声を上げる。完璧に捉えたその打球がライトスタンドに飛び込んで行くまで、ほんの一瞬のことだった。


「4打席連続ホームラン・・・。」


「バケモノかよ・・・。」


横で白鳥くんと佐藤くんが唖然としている。そしてマウンドでは


「まさか、あんな奴に・・・。」


小林雅則が悔しそうに土を蹴り上げている。


「このホームランは西が打たせたホームランだ。」


その姿を見ながら、監督は言う。


「意識していた西を打ち取って、小林だってホッとしたはずだ。そんな心理状態のまま、奴は安易にストレ-トでストライクを取りに行った。そんな気の抜けたボールはある程度スピ-ドは出てたとしても、今の松本には通用せんよ。」


(そうかもしれないけど、小林くんのボールはそんな簡単に打てるスピ-ドじゃ・・・。)


監督の言葉に私がそんな思いを抱いているうちに、当の松本くんは、相変わらずニコリともせず、固い表情でベースを一周して、ベンチに戻って来る。


「松本、ナイスバッティング!」


「すげぇな、おい。」


ベンチで上がる声に、固い表情のまま頷いた松本くんは、やがて私の横に。


「やったね。」


私が声を掛けると


「ありがとう。」


そう答えた松本くんの顔がようやくほころぶ。


「木本さんに褒められるといい顔になるな、松本。」


それを見た白鳥くんが冷やかすように言う。


「えっ・・・。」


思わず息を呑んだような表情になった松本くんに


「俺も木本さんに褒められてぇ、いつになったら出番が来るんだ。」


冗談交じりの口調で続けて、白鳥くんは離れて行く。


「思わぬライバルの出現に、徹もさすがに焦ってきたか。」


と今度は大宮くん。


「えっ?」


「もちろん俺も、ひょっとしたらマウンド上のアイツもかもな。」


なんと言ってる大宮くんを、私はキョトンとした表情で見た。
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