With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「それに正直なところ、キャッチャーが村井さんに代わって、白鳥くん、すごく投げやすそうです。」


私が言うと


「これも俺のミスだ。普段、白鳥を村井に任せすぎた結果、西とのコンビネーションを築かせてやれなかった。西なら、それでも上手くやれると思ったが、これは俺の判断が甘かった。」


「だから、さっき思い切って、キャプテンと村井さんを代えたんですね?」


「そうだ。白鳥は自分のことをよくわかっていると、村井を完全に信頼して投げている。逆に言えは、村井は白鳥のことを完全に手の内に入れたと言うことだ。見事だ。」


「はい。」


「恐らく白鳥なら、このまま相手を抑えていけるはずだ。小林はもういただきだと思ってるかもしれんが、この暑さの中、それもまだ1年生の奴がひとりで投げきるのは、決して簡単なことじゃない。勝負はまだこれからだ。」


「はい。」


監督の言葉に、私は大きく頷いた。


そうこうしているうちに6回表裏、更に7回表も0点で試合が進む。


7回裏、ウチの攻撃は3番からの好打順。だけど星さんはいなくて白鳥くんだ。


ピッチャーながら、彼も練習を見る限り、バッティングもいい。相手の小林雅則にも決してひけは取ってないと思うけど、でもなんと言っても、公式戦初打席だ。過度の期待は・・・。


なんてことを考えていると、初球を狙いすましたように振り抜いた打球は、ショートの頭上を越えてヒット。


スタンドからは黄色い声援が沸き上がり、ベンチでも盛り上がる私たちに対して、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる小林雅則。反撃開始だ。


「4番 ファースト 西くん。」


場内のコールにウチの応援席から歓声が上がる。でも聞き慣れた「キャッチャ-」とコールされないことに、私はハッと今の厳しい状況に改めて思い至る。


こちらの攻撃は、この回を含めてあと3回。なんとしてもこの間に4点差を追いつき、追い越さなくてはならないのだ。監督の指示は「当然打って行け」、バントで送って、まずは1点ずつなんて状況じゃないし、今のウチにキャプテン以上のバッタ-はいないのだから。


その4点差を背に、小林雅則は強気に西さんに勝負を挑む。試合も後半に差し掛かっているのに、彼の球速、球威に目に見える衰えは見られない。


「やっぱり大したピッチャ-だな。」


「そうだね・・・。」


佐藤くんがポツンと呟いた言葉に私も頷くしかない。
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