With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
2点差に迫り、尚もツーアウト1塁。


「小林。」


「大丈夫です、ちょっと油断しました。これ以上は絶対に点はやりませんから。」


マウンドでは心配して集まった先輩たちに、小林雅則が強気に言い放つ。


「力にだけ頼るな、ピッチングが単調になってるぞ。」


ベンチからの伝令の言葉に頷いた小林くんだったけど


(明協あたりを力で抑え込めなきゃ、御崎高に、松本哲になんか絶対に勝てねぇ。)


と内心では強気を崩してはいなかった。


そしてこちらのベンチでは


(ここは一気に小林を潰すチャンスだ。)


と判断した監督が、8番の片岡さんの代打に佐藤くんを告げた。指名された途端、佐藤くんの顔にサッと赤みがさす。そしてバットを鷲掴みにしてベンチを出ると、いつものようにブルンブルンと勢いよく素振りをくれ、打席に向かう。


「勝負を掛けたね、監督。」


「松本くん。」


「試合が終盤に差し掛かってるのに、守備の固い片岡さんに、あえて代打を出して、点を取りに行った。」


「そっか、たぶん監督は佐藤くんを代打の切り札だと今は思っているんだね。」


「僕もそう思う。」


佐藤くんは監督に嫌われてるって思ってるけど、そんなことは決してないんだと、私は松本くんと話して確信していた。


(小林はいいピッチャ-かもしれねぇが、所詮は同じ1年。ビビる必要なんてねぇ。)


相手を睨み据えた佐藤くんに小林雅則も真っ向勝負。強気と強気がぶつかり合った勝負は1球でついた。佐藤くんの放った打球は痛烈だったけどサード真正面のライナ-。天を仰ぐ佐藤くん、残念ながらここでチェンジだ。


「2点差ならワンチャンスだ、ガッチリ守って行くぞ。」


キャプテンがみんなに声を掛けて、真っ先にベンチを飛び出す。


「白鳥くん、しっかり。」


「おぅ。」


いよいよ残り2イニング。私の緊張感もますます高まって来る。


8回、白鳥くんのピッチングは尻上がりに調子が上がって来て、東海打線を三者凡退に退ける。


(さすがだ。残念だが、ウチはもう白鳥から点は取れないだろう。だったら、俺も打たせねぇまでだ。)


そう腹を括って、小林雅則はマウンドに立つ。


(雅則、あと2イニングだよ。頑張って・・・。)


東海応援席では、ユッコが祈るように彼を見つめていた。
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